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by rakudazou

あれから・・・思い出すことは

兄と妹
 2011年の12月半ばに歌人の花田春兆さんの入居する港区麻生の特養老人ホーム慶福苑を友人と訪問した。春兆さんの口に合うような菓子を持ち談話室で会った。いろんな話題に弾んでいるときに、すぐ隣で目を閉じながらヨーグルトを食べている少しボケている印象の車いすの老人がいた。あれから・・・思い出すことは_d0019913_16103642.jpg甲斐甲斐しく介護しながら、広告紙で熱心にクリスマスツリーを折っている赤いカーデガンのよく似合う女性が側にいた。彼女の手先からは幾つもの紙のクリスマスツリーが出来上り、私も完成した折り紙を頂いた。最初は付き添いと思われたが彼女は兄の世話していることが分かった。周囲の人々を交えながら更に会話をしていくうちに、そのお兄さんの無関心な表情がゆたかに顔色も生き生きと変化して驚かせた。妹さんの話によると奥さんも子供たちも先に亡くして、ひとりぼっちになった兄のところに毎週、江戸川区から尋ねて来ているという。そして、いつの間にか、そのお兄さんはパチパチと手を叩きながらとても嬉しそうに「あぁ、今日とても幸せ・・・」とニコニコして話し出しみんな一斉に注目をした。妹さんは「兄がこんなにはっきりとした表情をしたのは久しぶりです」と明るく語ってくれた。最後には手を合わせるようにして別れを惜しまされた。何か、この日は私も幸せな気持ちになった。あれから・・・思い出すことは_d0019913_16133787.jpg
 写真を出来上がったら送りますと妹さんからに住所を聞いていた。年明けても体調がすぐれずそのままになっていたが、1月の終りにやっと写真がプリント出来て、妹さんに電話をしたがご主人が出られた。用件を話すと「兄は1週間前に亡くなりました」と伝えられた。あの日の喜々として手を叩く様子が目に浮かび1度しか会ってはいないが仲の良い兄と妹を思い出し何故か涙が溢れてとても悲しかった。今ごろ、妹さんは兄の写真を見ていることだろう。昨年の終わりに心に残った2人である。
by rakudazou | 2012-02-02 16:15 | 《エッセイ》中村陽子